在留資格を有しない外国人の死亡慰謝料について
東京高裁平成13年1月25日判決は,交通事故で死亡した在留資格を有しない外国人の妻子が損害賠償請求を求めた事案について,「死亡慰謝料は、被害者の死亡によって被害者自身又はその遺族らが被った精神的苦痛を慰謝するために支払われる金銭であり、被害者の精神的被害に対する損害の賠償を本来的に目的とするものである。また、同時に被害者の財産的損害の算定が困難な場合の補完・調整的な役割を果たすこともあるほか、遺族の生活保障としての役割も果たすものと解されている。すなわち、慰謝料はそれに相応する金銭を受領することによる満足感のほかに、これによって財産的損害の補完を受け、あるいはこれを貯蓄したり、費消して様々な物品やサービスを取得することを介して満足を得、それによって被害者の精神的苦痛が軽減されることにより、精神的損害の慰謝を受けるものと考えられるのである。そして、慰謝料として支払われる金銭がどこで費消されるかによって、日本との経済的事情の相違によりその実質的価値が大きく異なることは否定できない事実である。とすれば、被害者の死亡による精神的苦痛や損害の程度は日本人と外国人とで本来的に差違がないものとしても、右のような貨幣価値その他の経済的事情の相違を考慮することなく慰謝料額を同一に算定することは、結果として精神的苦痛や損害の程度に差を設けるのと同じことであり、被害の実質的公平な賠償の要請に反することといわざるを得ない。したがって、死亡慰謝料額の算定にあたっては、日本人と外国人とを問わず、その支払を受ける遺族の生活の基盤がどこにあり、支払われた慰謝料がいずれの国で費消されるのか、そして当該外国と日本との賃金水準、物価水準、生活水準等の経済的事情の相違を考慮せざるを得ないものというべきである。」としました。「被控訴人らも本件被害者と同様、スリランカ民主社会主義共和国の国籍を有し、これまで同国を生活の基盤としており、将来も同様と予測されること、主だった品物の物価水準や所得水準、経済的な生活実態を比較すると、同国と日本とではその貨幣価値におよそ10倍近くの相違の存することが認められる。そこで、右のような経済的事情の相違を加味し、本件事故の態様、本件被害者の年齢、家族構成、職業、その他諸般の事情を考慮して本件被害者の死亡慰謝料を算定すると、その額は500万円が相当と認められる。」として死亡慰謝料を2600万円とした原審の判断を否定しました。