外国人の通院慰謝料の算定について(在留資格を有する期間内における通院の場合)
東京地裁平成3年4月26日判決は,中国人就学生の通院慰謝料について,通院期間が日本での在留資格を有し在留した期間内に収まっていたことから,外国人であることを理由として別異の扱いをすることを否定しました。「精神的苦痛という非財産的損害は,本質的に測定できない損失であるが,その補償は必要であり,慰謝料として認められているところ,慰謝料の機能は,金銭の有する満足的役割等をもって,被害者の精神に幸福感を生じさせ,苦痛を被った精神の均衡を回復させる点にあるが,慰謝料額の決定については,これまで種々の形式で基準化・定額化がなされており,交通事故訴訟に係る現実の紛争解決の過程において,その有効性が認められている。傷害慰謝料については,種々の構成要素からなる全治療過程が意味をもつが,傷害の部位や程度,痛みの程度,入院日数,通院期間,これらが被害者の職業,家庭生活に及ぼした影響等重要な要素に重点を置いて基準化・定額化がなされている。もっとも,個々の事案の具体性を十分に取り上げて,適正,妥当な額を導くために,基準化・定額化は当然修正しうるものである。外国人が被害者の場合は,特にその修正を考慮する必要があるが,当該外国人が日本に在留資格を有し,かつ,在留している間に慰謝を受けるべきものとされる場合には,前記基準化・定額化された慰謝料額を考慮して決定するのが相当であり,在留資格を失った後,あるいは在留資格の有無にかかわらず,帰国した後で慰謝を受けるべきものとされる場合には,当該外国人の帰国先の所得水準,物価水準等を考慮し,前記基準化・定額化された慰謝料額を変更して決定するのが相当である。結局,当該外国人たる被害者が,どこの国の住民としての立場で慰謝を受けるべきものであると判断されるかによることになるが,・・・本件慰謝料は,原告が本件事故で負った傷害に対する慰謝料であり,その傷害にもとづく精神的苦痛は,その治療期間等からして,在留資格を有する原告が日本に在留していた間に始まり,かつ,在留していた間に終了しているものといえる・・・ので,日本の住民として慰謝を受けるべきものであると判断される場合であり,原告は,在留資格を失い,中華人民共和国に帰国しているけれども,同国の住民として慰謝を受けるべきものと判断される場合にあたらないものとするのが相当であるから,同国の所得水準,物価水準等を考慮して前記基準化・定額化された慰謝料額を変更するのは相当でない。」としました。